MLAがThe Killers ツアーで「Wonderful Wonderful」な音をお届け
前回につづき今回のワールドツアーでもCapital Soundの運営によるMLAシステムを取り入れた米国のロックバンドThe Killers。ロンドン・O2アリーナでの2夜にわたるコンサートを行い、最高の盛り上がりとともにワールドツアーの全行程を終えました。
FOHを務めたのはKenny Kaiser氏。サポートエンジニアのToby Donovan氏とともに、世界でもっともMLAシステムの扱いに熟練したエンジニアといえる2人です。
5thアルバム「Wonderful Wonderful」を引っ提げたこのツアーで使用されたのは、メインが片側17本のMLAとダウンフィルとして2本のMLD、ステージ側面に周りこむように配置された座席もカバーするためサイドには、第1サイドとして各12本のMLAと各1本のMLD、第2サイドとして各10本のMLA Compactが用いられました。
低音域には、ステージ前方に向けて21台のMLXサブウーファーが一番下のみ逆向きに設置した3段スタックで7か所に配置、さらにメインとサイドの間には左右各5台のMLXサブウーファーが外側45度に向ける形で吊るされました。このようにサブウーファーを斜めの角度で吊るセッティングにより、ステージ側面の座席にも十分な低音域を響かせるだけでなく、エンジニアのDonovan氏にとってはステージ正面にグランドスタックされたMLXの指向制御が容易になりディレイをかける必要も最小限に抑えられるという利点があります。そしてそれによって更にパンチのあるサウンドを実現することができるのです。
公演ではこれに加え、会場全体により確実に音を届けるためにMartin AudioのDD12スピーカー6台がフロントフィルとして活躍しました。
アメリカ西海岸を拠点にコンサートツアーで数々の成功を収めてきたDelicate ProductionでMLAシリーズをはじめ、古くはW8LロングボウなどMartin Audioの製品を長年にわたり取り扱ってきて隅々まで知り尽くしているKenny Kaiser氏は言います。
「初めてMLAを体験したのはSelena Gomezの初の全米ツアーを担当していた時のことです。我々はそのツアーで初めてMLAを導入し、そしてすっかりその虜になりました。それ以降もMLAとともに数々のアーティストのツアーを周っていますが、その期待を裏切られたことは一度もありません。」
The KillersがMLAを初めて使用したのは前作「Battle Born」のアルバムツアー。当時このツアーのFOHを担当したのがKaiser氏の前任であるJames Gebhard氏だったこともあり、今回のツアーにおいてもMLAシステムが採用されることが決まりました。
「調音も大切ですが、何といってもこのツアーではクリアな音を大切にしてきました。グラスゴーのThe SSE HydroやブリクストンのO2 Academyのような会場では課題もありましたがDisplayでHard Avoidにすることで全てを解決することができました。それにやはりカバー力は圧巻です。本当に信じられないくらい音がよく届く。このシステムならどんなアリーナでだって出来ると思いますよ。」
Kaiser氏は続けます。「O2 Arenaでの昨日の公演は終始108dB位で、ピーク音量は112dBでした。メーターがほとんどグリーンにならないという、とにかく驚きのパワフルさでした。ダブリンの公演を聴きにきたJacknife Lee(今ツアーアルバムのプロデューサー)も実際に会場を歩き回ってみてそのカバー範囲の広さを体験し、かなり良い公演だと気に入ってくれました。」
またCapital SoundのメンバーついてKaiser氏は「とにかく最高のチームでした。クルーはみな熟練の技術者で、ユーモア溢れる面々です。」と賛辞を贈りました。
Kaiser氏の片腕を務め、またThe Killersの熱心な支持者でもあるDonovan氏はこう語ります。「The Killersのツアーを周るのは本当に楽しいですよ。私自身もうかなり長いこと色々なポジションで彼らのツアーに関わってきました——オーディオクルーチーフ、フェスイベントのFOHエンジニア、そして今回のSEとして。Kennyは最高のFOHエンジニアでしたよ。最高のステージとなったこのツアーで彼による迫力あるミックスを間近見て関われたのは最高の体験でした。」
「このツアーで心掛けたのは同じクオリティーを保つこと。Kennyのミックスは完璧だったので、我々の役目はそれをどこの会場でも、またどこの席でも同じように体験できるように再現することでした。常に同じクオリティーを再現するのは難しいですが、PAシステムが大きな助けとなりました。」
中でもMartin Audioのオプティマイゼーションソフトがその都度改良されたのが助けになったとDonovan氏は言います。「我々がプリセットの生成に使用したDISPLAYの最新バージョンは、その会場ごとの音響のカバレージをあっという間に計算してくれます。しかもそれだけでなく音圧レベルの分析や、バルコニーなど特定のエリアを回避したい、ステージへの音を少し抑えたい、といった細かい注文にも対応できるのです。我々の方でやることといえば、会場全体にわたりきちんと音圧レベル分析ができるようにDSPのほとんどをそこに割り当てることくらいです。」
Smaart用のワイヤレスアナライザーも持っているという両氏ですが、MLAならば会場のありとあらゆる箇所でのレスポンスチェックも不要です。そしてそのソフトウェアによるシミュレーションは、実際の会場における音響を非常に高い精度で予測・再現できると現場の技術者の間でも高く評価されてきています。
最後にKaiser氏はこう語ってくれました。「本当に圧倒的な音でした。バンドメンバーもステージに出てきてその音を聞いた瞬間、最高の気分だったに違いないと思います。」